「人を集める会社」から「人が集まる会社」へ
サカイ引越センターが挑む、ライフとキャリアを支える人材戦略
サカイ引越センター
人手不足が深刻化する中、多くの企業が採用や定着に課題を抱えています。特に運輸・物流業界では、少子高齢化や働き方の多様化を背景に、人材確保は経営上の重要課題となっています。こうした中、サカイ引越センターは、「人を集める会社」ではなく、「人が集まる会社」を目指した人材戦略を進めています。若手世代の価値観を理解した人材育成、ライフステージを支える制度、そして社員一人ひとりが自分らしいキャリアを描ける環境づくり。その背景には、「社員が長く安心して働き続けられる会社こそが企業の成長につながる」という考えがあります。人材育成やライフデザイン支援を担当する執行役員の大庭康広さんと、人事部次長の齋藤絢子さんに話を伺いました。
記事のポイント
- 若手の価値観を理解することから始まる人材育成
- 社員だけでなく家族も支える独自の福利厚生とは
- SAKAI FAMILY DAYが育む社員の誇りと職場の一体感
- 「人を集める会社」から「人が集まる会社」への人材戦略

■若手の価値観を理解することから始める
サカイ引越センターがライフデザイン支援に本格的に取り組むきっかけの一つとなったのが、企業のライフデザイン研修を支援する企業「NEXERA(ネクセラ)」のライフイベントを疑似体験できるボードゲーム「キャリアメーカー」を活用した研修でした。背景にあったのは、若手社員と管理職世代との価値観の違いです。
大庭さんは「若い世代の働き方や考え方を管理職世代が理解しなければ、どれだけ制度を整えても組織には浸透しません」と振り返ります。研修は若手社員のキャリア形成支援を目的とする一方で、マネジメント層が若手世代への理解を深める機会としても位置付けられました。

研修には、管理職候補となる30歳前後のメンバーを中心に約70人が参加しました。仕事、プライベート、お金、遊びといった要素を組み合わせながら人生設計を考える内容で、自身のキャリアとライフの関係を見つめ直す機会になったといいます。
特に印象的だったのが、「ワークライフブレンド」という考え方でした。若手社員の多くは、プライベートを大切にしたいと考えています。一方で、充実した生活を送るためには仕事も重要であり、収入も欠かせません。仕事か私生活かという二者択一ではなく、自分にとって最適なバランスを考えることの重要性に気づいた社員も少なくなかったそうです。
さらに研修では、「Will(自分がやりたいこと)」「Can(自分ができること)」「Must(会社や組織から期待される役割)」を重ね合わせながらキャリアを考えるフレームワークも行いました。自分の希望や強みだけでなく、組織から求められる役割との接点を見つけることで、自分らしさと仕事への納得感を両立したキャリア形成につなげる考え方です。サカイ引越センターでは現在、この考え方を新入社員研修や人材育成施策にも取り入れ、社員一人ひとりが主体的にキャリアを描ける環境づくりを進めています。
■地域に根ざし、長く働ける会社を目指す
ライフデザインの考え方は、人材育成だけではありません。採用や定着にも生かされています。サカイ引越センターでは地域採用を重要な人材戦略の一つと位置付けています。引越サービスは地域に密着した仕事です。その土地を知り、地域のお客様との信頼関係を築ける人材が長く働くことが、サービス品質の向上にもつながります。
一方で、地域で採用しても早期離職が続けば、人材不足は解消できません。だからこそ同社が重視しているのは、「採用すること」だけではなく、「安心して長く働き続けられる会社」であることです。
その象徴的な取り組みが、高卒社員への家庭訪問です。現在では全社的な取り組みとなっていますが、その原点は約10年前にさかのぼります。当時、静岡地区で責任者を務めていた大庭さんが、高卒社員の家庭を訪問したことが始まりでした。
18歳で社会に出た社員は、自宅で仕事について多くを語らないことも少なくありません。保護者にとっては、「どのような職場で、どんな仕事をしているのか」が見えにくいものです。そこで支社責任者らが家庭を訪問し、仕事中の写真や職場での様子を紹介すると、保護者からは想像以上に好意的な反応が返ってきたといいます。
家庭訪問を通じて会社と家族の信頼関係が築かれることで、社員本人が悩みを抱えた際にも早い段階で相談が寄せられるようになりました。また、資格取得支援制度や奨学金返済支援制度など、本人だけでは十分に伝わっていない制度を家族にも知ってもらう機会にもなっています。現在では9割以上の家庭が訪問を受け入れており、保護者からも高い評価を得ています。

■家族とのつながりが、安心して働ける環境をつくる
サカイ引越センターでは、社員本人だけでなく、その家族とのつながりも大切にしています。その象徴が、配偶者の誕生日に祝い金を支給する制度です。創業間もなく、創業者の田島憲一郎、治子夫妻の「社員が安心して働けるのは家族の支えがあるから」という考えから始まりました。祝い金は配偶者本人の口座に直接振り込まれます。齋藤さんは「社員だけでなく、その家族にも感謝の気持ちを伝えたいという思いが込められています」と話します。
近年は、社員の家族や地域住民を職場に招く「SAKAI FAMILY DAY」にも力を入れています。トラックとの記念撮影やイベントなどを通じて、家族が職場の雰囲気を知ることで、社員自身も仕事への誇りを実感できる機会になっています。2025年には全国で約2,100人が参加しました。こうした取り組みは福利厚生にとどまりません。家族に会社への理解が広がることで、社員が安心して働き続けられる環境づくりにもつながっています。
SAKAI FAMILY DAYを全国各地で開催するために、支社長などを務めた渡邉宏さんをSAKAI FAMILY DAYのプロデューサーに任命するなど、各地で本格的なイベントとして盛り上がっています。

■ライフデザインを支えるキャリア形成
ライフデザインを実現するためには、安心して働き続けられる環境だけでなく、自分らしいキャリアを描けることも欠かせません。サカイ引越センターでは、ジョブローテーション制度やフリーエージェント制度を設け、社員一人ひとりが主体的にキャリアを築ける環境づくりを進めています。背景にあるのは、「社員の可能性を会社が決めるのではなく、自ら挑戦する機会を広げたい」という考え方です。
引越事業だけでなく、グループ会社への異動、新規事業への参画、官公庁への出向など、多様なキャリアパスを用意することで、年齢や経験に関わらず新たな分野へ挑戦できる環境を整えています。
大庭さんは「一つの仕事だけを続けるのではなく、さまざまな経験を積むことが、社員自身の成長にも会社の成長にもつながります。何歳になっても新しいことにチャレンジできる会社でありたい」と話します。
こうした考え方は、ライフイベントによって働き方や価値観が変化しても、自分らしいキャリアを描き続けられる環境づくりにもつながっています。
■多様な事業への挑戦が若手社員のやりがいを生む
サカイ引越センターでは、引越事業を核としながら、リユース事業や電気工事業、クリーンサービス事業など様々な分野に事業領域を広げています。近年の若手社員は、「出世したい」「稼ぎたい」という価値観だけではなく、「社会に貢献したい」「自分らしく働きたい」と考える人が増えています。事業の多角化は企業の成長だけが目的ではありません。社員にとっても、自分の適性や興味に応じてさまざまな仕事に挑戦できる機会になります。

例えば、現場で経験を積んだ社員が新規事業に携わったり、社会課題の解決につながるプロジェクトに参加したりすることで、自分の仕事が社会の役に立っていることを実感できます。
大庭さんは「若い世代は、自分が社会にどう貢献できるかを大切にしています。引越だけではなく、さまざまな事業や社会課題の解決に携われることが、社員の成長や働きがいにもつながっています」と話します。
社員一人ひとりが、自分らしいキャリアを描きながら社会との接点を広げられること。それも「人が集まる会社」を目指す同社の人材戦略の一つです。
■ライフとキャリアの両立が企業の成長につながる
結婚や出産、子育て、介護など、人生にはさまざまなライフイベントがあります。同時に、働く人の価値観も多様化し、「どのように生き、どのように働くか」を自ら考える時代になっています。サカイ引越センターは、ライフデザインの考え方を人材育成の起点とし、社員一人ひとりが安心して働き続けられる環境づくりと、自分らしいキャリアに挑戦できる仕組みづくりを進めています。
「人を集める会社」から「人が集まる会社」へ。
創業以来受け継がれてきた「人を大切にする」という理念を土台に、ライフとキャリアの両面を支える人材戦略は、社員の成長と企業の持続的な成長の双方を支えています。





