ライフデザイン経営シンポジウムを名古屋市で開催
経済産業省は2025年12月18日、名古屋市のTsudoico NAGOYA sta.eastで「人材をいかすライフデザイン経営とは?~トヨタ自動車と経済産業省が語る新たな人事課題~」をテーマに、トヨタ自動車の人事担当者や自治体、有識者によるシンポジウムを開催しました。パネルディスカッションのほか、ライフデザインの支援サービスを体験できるイベントを実施しました。

【政策説明】ライフとキャリアを両立するために
経済産業省サービス政策課の西川奈緒課長が、開会挨拶とともに働き手の人生設計を支援するライフデザイン経営の意義や重要性について説明しました。

西川課長は少子化の進展や人手不足の深刻化する中で、「企業がライフイベントとキャリアの両立を支える環境づくりが、これまで以上に重要になっています」と説明。個人が主体的・自律的に人生の計画を立て、意思決定しやすくするには、必要な情報や気づきが欠かせません。ライフデザインは、学び直しやスキルアップ、ライフイベントを見据えた資金計画などに役立つ知識や情報の提供等を通じ、キャリアと生活の両立につながります。
経済産業省は2024年度、企業や自治体、教育機関と連携した実証事業を行いました。実証事業には、本シンポジウムの後半で実演する、個人のライフデザインをサポートする事業を展開するNEXERA(ネクセラ)や特定非営利活動法人manma、ソニー生命保険などが参加し、サービス開発や効果検証を行いました。
*「ライフデザインを支えるサービス~実証事業編~」
(https://lifestage-service.go.jp/lifedesign/service/)
実証事業の利用者アンケートでは、世代を問わず「どのような人生を送りたいかが明確になった」「これから先の人生の展望は明るいと思うようになった」といった効果が確認されました。実際に、ライフデザイン支援に取り組んでいる企業では、従業員エンゲージメントや男性育休取得率、採用の応募倍率などにおいて効果が見られ、業績向上につながった事例もあります。
*「ライフデザインで会社が変わる」
(https://lifestage-service.go.jp/lifedesign/kawaru/)
西川課長は「企業がライフデザインサービスの導入などライフデザイン支援を行うことは、個人のウェルビーイング向上と企業価値の向上の好循環につながります」と強調しました。経済産業省としては、先進事例の発信やWebコンテンツを通じて、ライフデザイン経営の普及を今後も後押ししていく方針です。
【パネルディスカッション】トヨタ自動車がライフデザイン経営を考えたわけとは
パネルディスカッションは、「トヨタ自動車と経済産業省が語る新たな人事課題」と題し、2023年から社員の「全員活躍」を掲げて人事制度や社内研修の見直しといったさらなる働き方改革を進めるトヨタ自動車の取り組みを取り上げながら、議論しました。
パネリストは、トヨタ自動車人事部労政室グループ長の加藤吏さん、同グループの松雄香怜さんをはじめ、豊田市こども・若者政策課長の近藤啓史さんや特定非営利活動法人manma代表の越智未空さんが参加し、経済産業省の西川課長がモデレーターを務めました。

■両立観のグラデーションの尊重と自律性による全員活躍の実現
トヨタ自動車は今年11月に、開発部門などに所属する本社勤務の若手社員を対象に、産前産後のライフイベントを題材としたmanmaの講座を取り入れました。トヨタでは働き手のライフ面に目を向けた社内の環境整備を進めているといい、加藤さんは、その狙いを「トヨタは今、100年に1度の変革期にあります。お客様はもちろん、従業員の幸せにも着眼し、“幸せの量産”をしていく。失敗してもチャレンジをし続けられる風土、制度を整えたい。子育て世代からシニア世代までがやりがいを持って働けるサポートをしていきたい」と説明。自動運転や燃料電池車など様々な変革が求められており、加藤さんは「いろんな方がいろんなフィールドで活躍してもらう時代。”幸せの量産”という労使の共通認識のもと、個性や多様性を武器に変え、会社の競争力向上につなげていきたい。またものづくりは人手不足が深刻なこともあるので、トヨタから産業の魅力向上にもつなげたい」と続けた。
トヨタ自動車は2023年の労使協議会で「全員活躍」を掲げ、個人の働きがいに着目し、打ち出したのが、「(キャリアとライフの)両立観のグラデーション」だという。加藤さんは、「属性を縛って『こういう働き方がいいよ』というのではなく、様々な働き方のオプションを用意して、従業員のやりがいやエンゲージメントの向上につなげたい」と語り、一人ひとりに寄り添った制度や職場環境の重要性を紹介しました。実際に中小企業でもトヨタのように社員の自律的なキャリアやライフの選択を支援することで自律的な判断ができる社員を育てている企業もあり、西川課長が、岡山県のフジワラテクノアートの事例を紹介しました。
*株式会社フジワラテクノアート「『子育て施策』から本当の働き方改革を通じ働きがいを実現」
(https://lifestage-service.go.jp/articles/lifedesign_section1_08/)
■「キャリアと違い、価値観が変わらない両立観」への対策
「仕事に関する価値観は時代ごとにアップデートされていますが、家庭や子育てと仕事の両立観はアップデートされていない」
トヨタでの講座を運営したmanmaの越智さんは、2014年の活動開始以来1,000人以上の若者の声に触れてきた感想として、ライフに対する価値観が変化していないという実感を明かしました。日本はすでに7割が共働き世帯となる中、「多様なロールモデルや機運を作ることが大事です。子育てを応援する会社のイメージも重要になってくる」と越智さん。トヨタの人事担当であり、自身も若手社員の一員でもある松雄さんは、「現場の女性比率を見ると1割を切る中で、両立のロールモデルを探すのは難しいというところもある。自身の両立観を持ってもらうためにも、(今回のような講座は)いい機会でした」と話しました。
トヨタのような取り組みに対して、自治体からも期待の声があります。トヨタが本社を構える豊田市の近藤さんは、「豊田市は、想定よりも早く人口減少を迎え、ライフデザイン経営によってこの会社で働くために、豊田市に住みたい、住み続けたいと前向きに考えるきっかけになればと考えてトヨタに講座を持ち掛けたところ、若い世代にライフを考えてもらいたいという課題意識が同じでした」と明かします。

■他人事を自分ごと化する講座を通じたライフの疑似体験
manmaがトヨタで行った研修では、産前産後を疑似体験できるすごろくゲーム「サンゴクエスト」を使いました。結婚や出産などを迎える若手社員を中心に制度の認知度が低いというトヨタの課題意識に対し、サイコロを転がしながら、子供の体調不良など産前産後の不測の事態に会社の制度を使う疑似体験を提供。トヨタの加藤さんは、「子育ても介護も同じような傾向があると思うが、突然身に降りかかってから考えることが多い。事前に疑似体験しておくことでどういう対応ができるのかという気づきになったと思います」と話しました。松雄さんも「すごろくですが、内容がすごくリアルでライフイベントに直面していなくても考えられる」と振り返る。トヨタでの講座を見学した豊田市の近藤さんも「キャリアとライフの両立イメージを持ってもらえたのではないかと思う。こうした取り組みが企業に広がってほしい」と期待感を示しました。
■今後の課題は?
企業がライフデザイン支援を行うことは、経済産業省が2024年度に実施した実証事業で、エンゲージメントや採用の面での有用性が認められています。一方で、企業が講座を取り入れる場合には、結婚や子育ては個人の価値観にもかかわり踏み込みづらいところもあると言われています。「特定の価値観に寄らないように、多様な選択肢や価値観が含まれるコンテンツ(講座内容)が求められる」とmanmaの越智さん。西川課長は、実証事業に参加した企業の感想として「自社ではできない補完性を実感した」という声を紹介し、「専門的な第三者の力をもらいながら社内にライフデザインに対する考え方を浸透させることも選択肢かもしれない」と語りました。
トヨタの加藤さんは、「会社と従業員が(車でいえば)両輪。会社として手を付けられていなかったライフ面(のサポートで会社と従業員の思い)が合致してくると、従業員が活躍できる環境を作れるのではないか」と、講座の意義を振り返りました。
【実演】3事業者のサービスを来場者が体験
後半には、働き手のライフデザインをサポートする事業を展開しているNEXERAやソニー生命保険、manmaが社員研修向けに提供している内容を紹介し、来場者のみなさんにサービスの一部を体験していただきました。
*ライフデザインを支えるサービス~実証事業編~
(https://lifestage-service.go.jp/lifedesign/service/)
■ボードゲームで自らの選択を疑似体験(NEXERA)
NEXERAは、ゲームを通してキャリアとライフがつながる体感が重要だと説明しました。独自開発したゲーム「キャリアメーカー」では、仕事、家族、健康、時間を軸に、自身の選択がキャリアとライフにどう影響が出るかを疑似体験できます。NEXERAの泉野航平さんは、「キャリアもライフも体感で同時に必要な知識や情報を得ていくことが大切です」と話しました。

■4つの「L」で考える5年後、10年後(manma)
manmaでは、大学生や若手社会人向けのライフデザイン研修を実施しています。この日は、大手企業で入社5年目の社員を対象に行った研修の事例を紹介しました。内容は、「4Lワーク」という、仕事、愛、学習、余暇の4つの観点から10年後の自分を考えるもの。manmaの越智さんは「このワークは、まずは頭の中にある漠然としたモヤモヤや不安を言語化して可視化してもらうためのものです。ライフデザインや働く理由の明確化につながり、働く意欲に直結すると考えています」と話しました。

■シミュレーションでライフを実感(ソニー生命保険)
ソニー生命保険は企業や学生向けに行っているライフプランニングのシミュレーションについて解説しました。ライフプランニングは、人生の目的や優先順位を明確にする、将来のお金の不安を「見える化」する――などの効果が得られるといいます。シミュレーションは、仮想の家族を想定することで、個人情報を開示しなくても体験ができます。子ども2人がいる想定で人生を設計した場合、働き方や投資などを変化させることで、老後資金を改善できる例を紹介しました。ソニー生命保険の庄司公洋さんは「このように将来を見据えることで、今のうちに様々な手立てを打つことができます。将来の赤字にしっかり備えることで、色々なことに挑戦できるようになります」と話しました。

*各社のサービスはこちらでご覧ください。
ライフデザインを支えるサービス~実証事業編~
(https://lifestage-service.go.jp/lifedesign/service/)
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