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「家族の笑顔と生活のゆとりはキッチンから」

家事代行「CaSy」・トップキャストに聞く

共働き世帯の増加に伴い、家事支援サービスのニーズが高まりを見せる一方で、「他人に家に入ってもらうのは抵抗がある」「家事を人に頼むのは手抜きなのではないか」という心理的ハードルも根強く存在します。家事支援サービス「CaSy(カジー)」に所属する全国約19,000人のキャストの中から、数人しか選ばれない最高峰「TEAM BLACKS」のメンバーとして活躍する藁谷まゆみさんに料理代行のお仕事について語っていただきました。

CaSyの家事支援サービスの仕事には「野菜販売やデパ地下の仕事が生きている」と話す藁谷さん

■一歩を踏み出した日

もともとは茨城県下妻市の農家から直接野菜を仕入れ、マルシェなどで販売する仕事をしていました。もう少し収入の柱を増やしたいと考えたときに頭に浮かんだのが、自分にできることで人の役に立ちたいという思いでした。

たまたまFacebookでCaSyの案内を目にしました。私自身、掃除はあまり得意ではないのですが、料理専門で働けることを知り、これだと思って応募したのがきっかけです。

面接と試験を経て登録し、2020年2月に初めてお客様の元へお伺いしました。ちょうど世の中に新型コロナウイルスが広がり始めた時期です。見ず知らずの人間を自宅にあげるのは、お客様にとっても不安だったと思うのですが、温かく受け入れてくださったことが本当にありがたかったと感じています。私自身も最初は、知らない方のご自宅に行くことに少し恐怖心がありましたが、実際にうかがってみると、みなさま大変親切でした。人見知りの部分もあったのですが、現場を経験するうちに解消されていきました。

藁谷さんは「がん克服の体験が頑張る原動力になった」と振り返る

1995年頃、大好きなアーティストのライブに行った際、自分の好きなことで輝いている姿を見て、私も食に携わる仕事で輝きたいと一念発起し、独学で公衆衛生学や栄養学などを勉強して調理師免許を取得しました。

長年勤めたデパ地下の惣菜店でも素晴らしい経験をさせていただいていたのですが、2009年に乳がんの手術を受けました。幸い早期発見で命を救われ、そのときに自分が生きる意味について深く考えるようになり、生きた証を残したい、学んできた接客の魅力を人に伝えていきたいと強く思うようになったのです。そこから社内の接客コンテストに挑戦し、全国上位の評価をいただくことができました。2012年にはショッピングセンターの接客コンテスト関東支部大会でも賞をいただいています。

こうした経験を経てCaSyに登録し、キャストのトップランクである「TEAM BLACKS」を目指すことにしました。CaSyにはキャストランクが11段階とランクに応じた3色のエプロンがあります。「TEAM BLACKS」に入る最低条件として最上位ランクである「パートナー」の称号を得る必要がありました。「パートナー」になるためにはまずお客様からの最高評価を積み重ねなければなりません。最初に応募したときはランクが足りず断られてしまったので、次の募集までに徹底的にお客様に満足していただけるサービスを心がけ、評価を集めて再挑戦しました。

選ばれてからは、キャストコミュニティアプリで全国の先輩や後輩キャストからの質問や悩みに回答するアドバイザーのような役割も担っています。相手の性別や年代を問わず、誰もが分かりやすい言葉で伝えることの難しさと責任感を日々実感しています。

■ご家庭に届ける安心感

キッチンに立つ藁谷さん。「利用前はシンクもコンロもきれいにしなくてもはずかしくありません」と語る。

サービスは基本的に3時間からでお伺いすることが多いです。事前にチャットでごあいさつし、アレルギーの有無やご家族構成、お好みの味付けなどを細かくヒアリングして、「豚肉300グラム、ニンジン2本…」と細かい食材リストをお送りします。当日ご家庭にある食材でおまかせもできます。また、食材の買い物を代行するときもあります。当日は5分前にお伺いし、手洗いをしてから打ち合わせを行います。ごみの分別、保存容器から「開けてはいけない扉」の位置まで尋ねます。初めて訪問するお宅では、プライベートな空間に知らない人が入る不安が和らげられるよう、第一印象の安心感は大切にしています。

調理の際、私が必ず最初に行うのがコンロとシンクの掃除です。最初に調理スペースを整えておくと、作業効率が上がるだけでなく、後片付けの際の時短にもつながります。終了20分前からは原状回復のための清掃に入り、コンロやシンク、調理台、床、壁、電子レンジの庫内まで拭き上げてから、ご満足いただける形でお料理の説明をして退出します。

家が散らかっているから頼みにくいとためらわれるお客様もいらっしゃいますが、全く気になさらないでいただきたいです。シンクに洗い物がたまっていても、レンジの庫内が汚れていても問題ありません。私たちはそれも含めてサポートし、お客様の時間と心のゆとりを作るためにうかがっていますから、ありのままの状態で安心して迎えていただきたいと思います。

■スペシャルオーダー「こいのぼりごはん」

野菜が苦手なお子さんがいらっしゃるお母さんからは、ピーマンを細かく刻んでハンバーグに入れてほしいというようなご要望をよくいただくのですが、実は細かく刻んで繊維を断つほど苦味が出ます。ですから私はあえて大きめに切って、さっと下茹でして苦味を抜いたものを提供します。型抜きを使ってミッキーマウスや星の形にしたり、一部の餃子の中にだけコーンが入った「当たりくじ付き料理」を作ったりして、食卓が楽しくなる工夫もしています。
大きめにカットされた野菜をそのまま食べられたという経験は、お子様にとってきっと大きな成功体験になるでしょう。

ただ、親御様には無理に食べさせなくても大丈夫ともお伝えしています。ご自宅で食べなくても保育園や学校ではみんなと一緒に食べていたりしますし、成長すれば自然と食べられるようになります。食べる行為自体が嫌いにならないことが一番大切です。

以前、3歳くらいの男の子からスペシャルオーダーをいただいたことがあります。部屋に飾っていた小さなこいのぼりを見て「もうこいのぼりを飾る季節なんだね」と声を掛けたら返ってきたのは「こいのぼりごはんをつくって」とのリクエスト。ポールはナス、ポールの先端はシイタケ、コイはエリンギでと、具体的な「ご指示」をいただきました。一生懸命作ったのですがすごく笑っちゃうぐらい不細工な「こいのぼりごはん」ができてしまったのですが、あとからお母さんから「とっても喜んで残さず食べてくれました」と聞いてホッとしました。

依頼者宅の男の子のリクエストに応えてつくった「こいのぼりごはん」

別の小学校低学年の男の子はお母さんに内緒で「いつもおいしいご飯を作ってくれてありがとう」と耳打ちに来てくれたり、野菜が苦手な2歳のお子さんに作ったかぼちゃの煮物を「手をたたきながら喜んで食べてくれました」とお母さんに聞いたり。そんな瞬間は、この仕事をしていて最も嬉しく感じる場面です。

■余すところなく料理に。「一物全体食」がモットー

藁谷さんが依頼者のために作った料理の数々

農家から直接野菜を仕入れていた経験から、農家の方々が害虫や天候と戦いながら野菜を育てる大変さを知っているので、食材を捨てることがとてももったいなく感じられます。現在もっと料理を極めようとクッキングスクールに通っているのですが、そこでは「一物全体食」という、食材の命を余すことなくいただく考え方を学んでいます。大根や人参も皮の近くに栄養が詰まっていますから、きれいに洗って皮ごと調理します。

私の料理のモットーは、「心と体を元気に」です。体が元気になれば心も元気になり、食卓に笑顔が生まれます。安心で安全な素材で、家庭ごとの好みの味に寄り添うと、作り手の顔が見えるのもあって安心ですよね。作り置きのお惣菜が冷蔵庫にあるという安心感だけで、ご家族全員の心のゆとりが変わってくると信じています。

■家事支援の利用は「ズルではない」

家事支援サービスを利用することに対して、自分がズルをしているのではないかと自分を責めてしまう方が多くいらっしゃいます。でも、決して手抜きでも贅沢でもありません。

かつての日本は同居するおじいちゃんやおばあちゃん、ご近所さんの支えがあり、専業主婦が家事を担う時代でした。今は核家族化が進み、共働き世帯も増えてきています。近くに頼れる家族がいないのであれば、得意な人に任せるのは当然の選択だと思います。

奥さんに代わって依頼されたご主人から「妻がいつも週末の作り置きがすごく大変そうだからちょっと頼んでみました。来てもらった週は妻がすごく笑顔で、だから本当に頼んでよかったと思います」と連絡をいただきました。家事支援を利用してママやパパが笑顔になれば、お子さんもご家族もみんなハッピーになります。一人暮らしでもご飯の安心があれば、仕事にも専念できるし、好きなことにでも専念できます。食べることは生きることそのものだから、その「食べる」がしっかりしていれば、生きる土台ができてチャレンジする活力も出てくるし、チャンスが来たときに対応もできると思います。

一人で抱え込まずに「助けて」「手伝って」と言っていい時代だと思います。家事支援は特別なものではなく、誰もが気兼ねなく利用できるインフラのような当たり前のサービスとして社会に広がっていくよう、これからも心を込めて温かい食卓をお届けしていきたいと考えています。

「助けてといえる社会になればみなハッピー」と話す藁谷さん